エキスパートに学ぶ 第6回 血管強化の話

第6回

血管強化の話

全身をめぐる血管こそ、
美と健康の要

医学博士 すぎおかクリニック 理事長

杉岡充爾(じゅうじ) 先生

血管の健康は疾患の予防やアンチエイジングに大変重要であることを本シリーズ第4回「血管の話」で取り上げましたが、今回は再び血管をテーマに、健康に加え美容との関わりについてご紹介します。ふだんの生活で積極的に血管を強化することがいかに若々しく美しい体を保つことにつながるのか。循環器の分野で約20年間救急医療に携わり、現在も日々患者さんと向き合いながら血管強化の大切さを提唱されている杉岡充爾じゅうじ先生にお話を伺いました。

健康だと信じている人も
実は血管が弱っている

杉岡先生は血管と健康について積極的に啓蒙活動をされていますが、その理由を教えていただけますか?

杉岡先生

一つには血管の病気の怖さがまだ十分に浸透していないということがあります。日本人の死因で一番多いのはご存知のようにガンですが、2位は心疾患、3位が肺炎で4位が脳血管疾患、つまり脳卒中です(平成23年厚生労働省発表データ)。2位と4位の疾患はどちらも血管の詰まりが原因で、この2つを足すとガンに迫るレベルになります。これは一般にあまり知られておらず、血管に関わる疾患がガンほどには怖いと思われていないのです。その意味で、もっと世間に知らせないといけないという思いがあります。また、人間には脳や心臓、肝臓と様々な臓器がありますが、それらは全身の一部分です。いっぽう血管は全身に張りめぐらされていて、しかも血管の一番内側には内皮細胞という一層の薄い細胞があり、そこからはたくさんのホルモンが放出されることがわかってきました。そのため、最近では血管は人間最大の臓器だと言われるようになっています。血管に注目することは最大の臓器の健康を考えることであり、非常に重要であると考えています。

「血管強化」という言葉には、どのような思いが込められているのでしょうか?

杉岡先生

脳卒中のような血管の詰まりが原因の病気は、その一歩手前で高血圧や糖尿病などの生活習慣病に罹患している場合が多いものです。そういった患者さんは病院に行くと動脈硬化を指摘され、血管のことを気にするようになる。ところが、そうでない人、一見健康で病院を受診しない人の場合、たとえ動脈硬化が進んでいても、自分の血管が弱っているとは考えもしないことが多いのです。そんな人たちにも、知らないうちに血管の状態は悪くなっていることを気づかせたいと思い、「血管強化」という言葉を使って血管への意識向上を促しています。

血管強化で目指すのはどんな血管でしょうか?

杉岡先生

血管の役割は全身の隅々まで血液を運び、栄養や酸素をとどけることですから、毛細血管を含めて血行の良い状態であることが必要です。しかし、先に挙げた動脈硬化や血管が狭くなる、硬くなるといった血管の老化によって、血行は妨げられてしまいます。そういった状態を招かないように、血管が弾力性を持って拡張し、スムーズな血行を維持できるよう若々しく保つこと、言い換えれば血管のアンチエイジング、それが血管強化といえるでしょう。

血管のアンチエイジングが
美しさにつながる

血管の状態は身体にどう影響するのでしょうか?

杉岡先生

血管は最大の臓器と言いましたが、言い換えれば全ての器官に栄養を送る大切なパイプということができます。もしこのパイプが途中で狭くなったり、詰まったりすると全身の器官に十分な栄養が運ばれないため、内臓の機能が低下してゆき、それが病気へとつながってしまいます。つまり、どんなに臓器が正常でも、血管が正しく機能していないと健康は維持できない。逆に言えば、血管を強化し、しっかり機能させることが健康の基本になるということです。そして、美容面、つまり美しさにとっても血管強化は大きな関係があります。

血管強化が美容にどうつながっていくのでしょうか?

杉岡先生

美容といえば何よりも肌の状態を気にされると思いますが、顔の肌が美しいと血色が良いと言いますね。これは肌の毛細血管の血行が良い、つまり十分な血流が保たれているということです。その時、毛細血管は拡張し、血液の流れをスムーズにしています。しかし、血管が硬くなり、縮んでしまっていては、良い血行は望めません。若々しい肌は、まず血管の若さから作られるのです。そしてもう一つ重要なポイントは、血管の若さだけを気にしていても、肌の状態は良くならないということです。というのも、体は内臓の機能が落ちているとそこに一生懸命血液を送ろうと働きます。するとその影響で手足や肌などでは逆に毛細血管が閉まり、血流が滞ってしまいます。ですから内臓の状態を良くしないと肌の血行は良くならないのです。その上で、肌に良い栄養成分をとどけることが大切です。

肌に良い成分というと、よくコラーゲンが挙げられます。

杉岡先生

コラーゲンは皮膚の組織のハリを作るもので、きれいな肌のためには欠かせません。また血管の壁を作る成分でもありますので、コラーゲンがたくさんあれば血管がしっかりして血行が良くなり、肌にも良い影響を与えます。ただしコラーゲンは極めて分子量の大きい物質のため、そのままでは吸収されず、分解されアミノ酸となって初めて吸収されるのです。ではどうしたら体内のコラーゲンを増やせるのかというと、その材料となる、たん白質、ビタミンC、鉄を食事等でしっかり摂ることです。

肌を美しく保つには血管をはじめ、様々な面に気を配る必要があるのですね。

杉岡先生

血管を強化して体の隅々まで血行を良くすること、内臓の健康を保つこと、その上でコラーゲンの材料となる成分を常に摂るようにすること、これら全てが皮膚の美容につながります。