第5回 体内時計を正しく動かして、24時間の健康リズムを 早稲田大学 理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科 早稲田大学先端生命医科学センター長 柴田重信 教授

体内時計を乱さないためには
「光」と「食事」でのリセットが必要

- 体内時計には重要な役割があることがわかりましたが、この時計は乱れてしまうこともあるのでしょうか?

早稲田大学 理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科 早稲田大学先端生命医科学センター長 柴田重信 教授

柴田教授体内時計とは時計遺伝子が概日リズムを刻む仕組みであると先に述べましたが、実はこの周期は厳密に24時間ではなく、24時間15分程度と考えられています。そのままでは少しずつ後ろにずれてしまいますから、これを外界の時間と合わせるために、毎日リセットする必要があります。親時計と子時計がともに正しくリセットされるのが望ましいのですが、これができないと体内時計に乱れが生じて、体調に悪影響を与えてしまうのです。

- 体内時計はどのようにリセットされるのでしょう?

柴田教授体内時計の調節方法は親時計と子時計で異なります。まず、親時計である視交叉上核は「光」によってリセットされます。これは視交叉上核がどこにあるかを知ると理解しやすいのですが、この組織は脳の視床下部の中にあって、その位置がちょうど目から伸びる視神経が交叉する場所にあたります。つまり、目から入ってきた光の信号をキャッチするのに非常に適した位置にあって、ここで朝の光を感じることによって、親時計の針が合わせられて1日の活動を開始しますよという指令が発せられるというわけです。

脳内の視交叉上核の位置

いっぽう、末梢の子時計の方は光ではなく「朝食」がポイントです。朝ご飯を食べることで、末梢の体内時計がリセットされ動き始めるという仕組みになっています。その鍵となるのがインスリンです。食後に血糖が増えると膵臓から分泌されるこのホルモンは、血液中のブドウ糖を細胞に取り込んで血糖値を一定に保つ働きをもつと同時に、時計遺伝子にシグナルを送って体内時計をリセットするという役割も担っています。ですから、体内時計を正常に動かすためには、血糖値を高める炭水化物(糖質)をとることが必要です。ただし、やみくもに炭水化物だけをとるのではなくたん白質等も一緒にとることが望ましいのです。この点は後で述べましょう。

- うまくリセットされずに体内時計が乱れるとどんな影響があらわれますか?

柴田教授体内時計は1日の活動に合わせて、体温や血圧、ホルモン分泌などのリズムをつくっていますので、乱れた場合には、実際の活動に体が合わせられない、いわゆる時差ボケの状態を招いてしまいます。また、親時計と子時計がバラバラに動いてしまうと、体の中で時差が生じて、やはり体調不良を招くことになってしまいます。具体的には仕事の能率が落ちたり、成績が悪くなったり、運動パフォーマンスが下がったりといった影響がみられます。さらに、睡眠障害や糖尿病、がんなどいくつかの疾患は、体内時計の乱れが関連していることがわかっています。

休みの日は遅くまで寝ていたい。
でも「社会的時差ボケ」には要注意

- できるだけ体内時計を乱さないために普段の生活サイクルで気をつける点は?

柴田教授平日は比較的早寝早起きでも、休みになると夜更かしして起床が遅くなる生活パターンの人は多いと思いますが、この平日と休日の睡眠時間帯の差が開きすぎると、体内時計に狂いが生じます。これを「社会的時差ボケ」と呼んでいます。その目安は起床時間にして2時間程度の差で、それを越えると影響があらわれやすくなります。私たちが行った予備的な調査研究でも社会的時差ボケに比例して学業成績や体力が低くなるという結果が出ています。

- 平日と休日の差は小さい方が良いということですね。では、毎日の起床時間が遅い生活パターンはどうなのでしょう?

柴田教授朝の光を浴びて、体内時計をリセットすることが大切ですから、夜型の生活はできれば避けた方が良いのですが、仕事上の理由などで例えば、毎朝10時に起きてそれから1日をスタートするという方もいるでしょう。そのような場合でも、起床までは部屋を暗くしておけば、遅く起きること自体はあまり問題ではないと思います。ただ、どうしてもまわりの社会と関わる中で、時々朝が早くなることもあるでしょうから、生活を毎日規則的に維持できないと体内時計を狂わせる恐れがあります。

- あまり夜型にならない生活が望ましいのですね。

早稲田大学 理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科 早稲田大学先端生命医科学センター長 柴田重信 教授

柴田教授基本はそういえるでしょう。例えば学生時代に宵っ張りの生活を続けていると、会社に入ってからもなかなかそれが朝型に戻せず苦労するということもありますので、夜型生活の習慣化には要注意です。ただし、遺伝的にどうしても早い時間に眠れない方も一定の割合で存在します。その場合、治療による改善は難しいケースもありますので、一つの考え方は夜型のサイクルに合った職業を選ぶなど、生活自体を適応させていくという方法をとることも考えられるでしょう。

知らず知らずに体内時計を狂わせる、
遅い時間の食事や光(ブルーライト)

- 体内時計を正しく動かすために積極的に心がける点について教えてください。まず「光」についてはいかがでしょうか?

柴田教授朝の光は体内時計をリセットして、時計を前に進める効果がありますので、目覚めたら朝の光を浴びることが大切です。しかし、同じ光でも夜は要注意です。というのは、光によって体内時計が後ろにずれてしまい、眠りにつく時刻を遅くしてしまう恐れがあるためです。これは、光が睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑制してしまうためで、遅い時間の光、特にブルーライトは影響が大きいですから、寝る前のスマホやパソコン、テレビ等はなるべく避ける生活を心がけましょう。

- 食事は朝食だけに気をつければ良いのでしょうか?

柴田教授朝食にはリセット効果があると言いましたが、この効果を引き出すために大切なのが、十分な絶食時間をとることです。それによって、朝食時にインスリン感受性が高い(インスリンが働きやすい)状態となり、体内時計をリセットするスイッチが入りやすくなるのです。ですから、前日の夕食時間も考慮する必要があって、例えば朝食が朝の7時なら、前日は夜8時くらいまでに夕食を済ますというように、10時間以上は空けるようにしたいものです。

また、朝食を抜いたり、起床してから朝食までの時間が長いと脳の時計(親時計)は朝の光で進んでも、食事の刺激を受けていない末梢の時計は進まず、体内では脳と体がアンバランスな状態になってしまいます。目安として起床後1時間くらいのうちに朝食をとった方がよいでしょう。

- 夕食が遅い時間にしかとれない人の場合は、何か対策がありますか?

柴田教授どうしても遅くなってしまう場合には、分食をお薦めしています。夕方の5〜6時頃に仕事場でおにぎりのような主食系のものを食べ、帰宅した10時頃の食事はあまり血糖値を上げない副菜、例えばスープやサラダ、豆腐などで済ますようにします。この場合、気をつけたいのは、遅い時間の食事でさらに主食系をしっかり食べてしまうこと。翌朝に体内時計がうまくリセットされないことになってしまいます。