エキスパートに学ぶ 第4回 血管の話

第4回

血管の話

はじめよう、「血管力」向上生活

地方独立行政法人りんくう総合医療センター 病院長 / 大阪大学大学院医学系研究科 総合地域医療学寄附講座 特任教授

山下静也 先生

からだを支える重要なネットワークである血管も、肌や筋肉、骨などと同様に加齢とともに衰え、機能が低下してしまうものです。そのあらわれでもある「動脈硬化」は心臓や脳に重大な病気を引き起こす原因にもなり、からだの中のアンチエイジングにとって重要なテーマといえます。いつまでも若々しく健康な血管を維持する、そんな「血管力」のために心がけたい生活について、血管等の循環器領域で治療や臨床研究に長年携わり、現在日本動脈硬化学会理事長を務められている山下静也先生にお話を伺いました。

10人に3人の死因が、
動脈硬化性疾患という現実

本日は血管力ということで、血管の健康について動脈硬化を中心にうかがいたいと思います。まず血管とはどのようなものか、教えていただけますか?

山下先生

ご存知のように血管は動脈と静脈、毛細血管と大きく3つに分かれ、これらが全身に張りめぐらされています。うち、最も大事な役割を担っているのが動脈であり、酸素の多い血液を全身に送り届けています。動脈から運ばれた血液は各組織において毛細血管という細い血管によって酸素を届け、再び心臓に戻されます。その際に血液を末端から心臓まで運んでいるのが静脈です。

動脈は心臓から出る太い大動脈から分かれる頸動脈や腹腔動脈、大腿動脈等を経てしだいに細く枝分かれしていきます。これ以外に心臓自体に血液を送ってその筋肉を動かしている血管があり、これを冠動脈といいます。

大変重要な役割を担っている血管で起きるのが「動脈硬化」ということですね。
それはどのような状態なのでしょうか?

山下先生

血管は内膜・中膜・外膜の三層からできていますが、このうちの一番内側の薄い層である内膜が傷害されると、そこにコレステロールがたまって盛り上がり、さらにそこに血小板が集まって血栓ができてしまいます。これらにより血管の内腔が狭くなった状態が動脈硬化です。血液の流れが悪くなりますし、進行して血管が完全にふさがってしまうと、その先に血液が流れず、臓器が正常に機能しなくなってしまいます。

動脈硬化のメカニズム

動脈硬化によって体にはどのような影響があらわれるのでしょうか?

山下先生

動脈硬化が引き起こす動脈硬化性疾患には、主に狭心症や心筋梗塞を中心とした虚血性心疾患と、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害が挙げられ、これらを合わせると日本人の死因の約30%近くを占めるほど多くの人に関わりの深い病気です。

例えば、心臓の冠動脈に動脈硬化を起こして、75%とか90%といった割合で血管が塞がってしまうと、運動の際に胸の痛みや圧迫感といった狭心症の症状がみられます。冠動脈が完全に詰まってしまうと心臓の筋肉が壊死して心筋梗塞を起こしてしまうのです。同様のことが足の動脈で起きると、血液からの酸素がとどかず、歩いたり走ったりした場合には足が痛くなって、休まないと歩けない状態となり、さらに進めば足の壊疽を招いてしまいます。