第3回 酸化ストレス 活性酸素から口の健康を守ろう 神奈川歯科大学大学院 歯学研究科 口腔科学講座 吉野文彦 准教授

虫歯や歯周病、口内炎など口の中(口腔)の病気は非常に身近であり、その原因や治療、予防法などについてしばしば話題に取り上げられます。一方近年、動脈硬化や老化など全身の健康との関わりから非常に関心が高まってきたのが「活性酸素」です。この活性酸素が実は口腔の病気とも深い関わりがあることをご存知でしょうか? 林原 知識ライブラリー第3回は、この関係について研究され、新たな知見を示されてきた神奈川歯科大学大学院の吉野文彦先生にお話をうかがいました。

必要だけれど、増えすぎると問題。
歯周病と活性酸素の微妙な関係

- 口腔のお話の前に、まず「活性酸素」や「酸化ストレス」とはいかなるものかを教えていただけますか?

吉野准教授私たちの体は大気中の酸素を取り込み、これを利用して栄養分を分解し、エネルギーを作り出しています。しかし、この過程の中で一部の酸素は不安定で他の物質と反応しやすい「活性酸素」になってしまいます。活性酸素は強い酸化力をもち、殺菌作用を発揮して感染を防ぐなど体に有用である一方、過剰に発生すると血液や血管、細胞を酸化し健康にさまざまな悪影響を与えることになります。そのため、体にはもともと活性酸素を消去するしくみ(抗酸化能)が備わっていて、活性酸素の作用とのバランスをとっています。しかし、さまざまな要因でこのバランスが崩れ活性酸素の力が強くなってしまうことがあるのです。それが、いわゆる酸化ストレスです。

活性酸素と抗酸化能のバランス

- う蝕(虫歯)や歯周病などは細菌が原因といわれますが、酸化ストレスとも関わりがあるのでしょうか?

吉野准教授虫歯と歯周病は口腔の2大疾患といわれます。虫歯については今のところ活性酸素との関連は見いだされていませんが、歯周病とは深い関わりをもっています。そもそも歯周病は細菌感染によって引き起こされ、口の中に存在する300 ~ 400種類くらいの細菌のうちの3種類ほどが主たる原因菌とされています。それらの感染によって炎症が起きると、体には細菌から守ろうとする働き、いわゆる免疫反応が起こり、炎症部位には白血球の一種である好中球が集まってきます。好中球はその殺菌作用によって感染から体を守ろうと働きますが、その際に活性酸素が放出されるのです。ここで活性酸素は殺菌作用という良い面を発揮しますが、炎症が悪化し、慢性化してきたり、体の抗酸化能が低下してきたりすることで活性酸素が過剰に産生されて酸化ストレスの発生に繋がってしまうのです。

- 体の防御システムのバランスが崩れてしまうことで酸化ストレスが生まれるのですね。それによって口の中にどのような影響がありますか?

吉野准教授過剰になった活性酸素は、口腔の細胞や組織を傷害します。歯周病による炎症が起きている歯茎などでは、さらに組織が傷つき、病状を悪化させます。少し専門的になりますが、歯茎の炎症は大きく歯肉炎と歯周炎に分けられ、炎症が歯茎だけにとどまっているものが歯肉炎です。炎症が慢性化して広がってくると、歯を支えている骨(歯槽骨)の吸収(骨が溶ける)が始まります。この段階まで進んだものを歯周炎と呼ぶのですが、骨の吸収は炎症によって集まってきた好中球によって促されることがわかっています。つまり、酸化ストレスによる炎症の広がりが歯を支える大切な骨にも影響してしまうと考えられます。

- 活性酸素によって口の中の血管にも問題が起きてしまいますか?

吉野准教授歯茎などには細い血管が通っていて、これは微小循環と呼ばれます。活性酸素はこの血管を酸化し、劣化させてしまうため血流が滞って、微小循環が損なわれてしまいます。その結果、必要な栄養や酸素がとどけられなくなり、一部の組織が壊死することが引き金となって歯周病を招いてしまうと考えられています。

歯と周囲組織や血管への活性酸素の影響