第14回 眼の病態と予防 クリアな水晶体で維持する人生100年時代の視力 慶応義塾大学薬学部 専任講師 中澤洋介 先生

【眼によい成分とは】
科学技術の進歩で期待される新しいサプリメントの登場

ー 眼の健康のために摂るべき成分にはどのようなものがありますか?

中澤先生角膜や水晶体、硝子体、網膜等、眼の組織は常に光による酸化を受けていますので、酸化ストレスから守る抗酸化物質は基本的に眼によいと考えられます。ビタミンCやEなど抗酸化作用のあるビタミン、あるいはブルーベリー等に含まれるアントシアニン、緑黄色野菜に多いルテインなども眼によい抗酸化物質として知られています。
ただし、一つ気にしておいた方がよいのは眼によいといった場合に、その成分がどこに作用するものかという点です。アントシアニンやルテインが網膜によいというのは研究からも明らかにされていますが、水晶体や角膜への効果はまだ明確ではありませんので、眼が疲れたらブルーベリーといったイメージが先行し過ぎてしまうのは少し心配です。例えばドライアイならこれ、緑内障ならこれがいいという具合に、もっと細かく区別して考える必要があるでしょう。そのためには私たち研究者がしっかりと調べて、エビデンスを積み上げ、情報を発信していく必要があると思っています。

ー 新しく注目されている成分もあるのでしょうか?

中澤先生水晶体に関わる症状にはクコの実や、ウコンに含まれるクルクミンがよいということが最近いわれており、それらの成分が水晶体の混濁を抑え、白内障の進行を遅らせるといったことがきちんとした論文として出ています。私自身は、柑橘類の果皮に含まれるポリフェノールの一種であるヘスペリジンについて林原さんと共同研究を進めており、この成分を体内に吸収されやすくしたα-グルコシルヘスペリジンが水晶体の硬化抑制に寄与することを発見しました。

また、ヒトを対象にした試験でも近くを見る視力が改善されたという結果がみられました。今後も眼によい成分が新たに見いだされる可能性がありますが、こういったことがわかりはじめてきたのは、科学技術の進歩によって、より細かく正確に成分の同定や解析が可能になってきた背景があり、最新技術の活用によって新しい成分や化合物をサプリメントや医薬品に生かす時代になってくると思います。

【眼によい生活のヒント】
‘No glasses, no play’ サングラスと帽子で眼の酸化防止を

ー 眼のために日常生活で心がけておくとよいことを教えてください。

中澤先生まず、飲み物に関していうと、日常的に飲む緑茶や紅茶、コーヒーは白内障によいといわれています。緑茶には緑茶ポリフェノールといったように、それぞれ抗酸化物質を含みますので、その抗酸化作用が眼によい効果を及ぼしていると思われます。紅茶は緑内障のリスクを下げるという研究報告もありますが、面白いことにホット紅茶にはその効果が期待できるものの、冷たい紅茶の場合では効果がないという結果が疫学的研究から示されています。いずれにしても、お茶類やコーヒーの抗酸化物質が眼に働くということがいえると思います。

ー 光による眼の酸化を防ぐためにできることはありますか?

中澤先生屋外ではサングラスや帽子をお薦めします。私が以前留学していたニュージーランドでは「ノーグラスイズ ノープレイ(No glasses, no play)」という規則がありまして、親は15歳以下の子供を外で遊ばせるときには必ずサングラスをかけさせないといけない。破れば一応罰金も課される決まりになっています。これは帽子も同様で、4、5歳の子供が当たり前のようにサングラスと帽子をつけている光景がみられます。

当地では以前オゾンホールのために紫外線がたいへん強くなって、皮膚病とともに眼の病気が非常に増えたため、国として眼を守ろうという動きになったのだと思います。そこまで日本の紫外線は強くないとしても、日差しを避け、紫外線による酸化を抑えるという意識をもつことは大切です。

ー 眼を疲れさせない生活へのアドバイスをいただけますか。

中澤先生やはりパソコンやスマートフォン、タブレットの見過ぎは眼を疲弊させるのでよろしくないと思います。こういった機器の発達は、近方距離の作業を劇的に増やしていますが、例えば狩猟など、歴史的に人間は遠くを見る生活をしていました。それがここ数十年で極端に変化してしまいましたので、毎日無理をさせている眼を休めることを心がけましょう。5m以上先を見ると眼は休まるので、スマートフォンを置く時間をつくって少し遠くを見るようにしたいですね。また、寝る前にスマートフォンを見るのも控えた方がいいでしょう。暗い中で光を取り込もうとして瞳孔が開いていると、水晶体や網膜全体にスマートフォンのブルーライトがあたってしまい、眼の疲れを助長することになってしまいます。

【今後へ向けた取り組み】
老眼から白内障への流れを見据えた創薬をめざして

ー 眼の健康に取り組む中澤先生の今後の展望をお聞かせください。

中澤先生白内障へのよい薬をつくりたいという思いは常にあります。今は、点眼薬による治療を選択できないが故に手術を選択する流れがあると思いますので、薬によって手術を遅らせ、自分の水晶体を長く維持できる人を増やすことに繋げられればと考えます。

一方、老眼についても高齢化の進行とともに今後さらに大きな問題になってくるでしょう。鬱や引きこもりになるなど社会的な損失にも繋がると聞きますので、老眼への新薬開発も目指していきたいと思っています。この2点ですね。そして、老眼を遅らせられれば白内障の発症を先へ延ばすことができ、水晶体を守っていくことができますので、そこに貢献できるよう頑張っていこうと思います。

ー 老眼や白内障が点眼薬で治せる時代が来ることに期待がふくらみます。
本日はありがとうございました。

取材日:2023.2.16

慶応義塾大学薬学部
専任講師
中澤洋介 先生

略歴

2005年 共立薬科大学大学院薬学研究科(現慶應義塾大学大学院) 修了
2005年 摂南大学薬学部 助手
2009年 慶應義塾大学薬学部 助手
2012年 慶應義塾大学薬学部 助教
2016年 The University of Auckland, Faculty of Medical and Health Sciences, Visiting Researcher
2019年 東京薬科大学薬学部 非常勤講師 現在に至る
2019年 慶應義塾大学薬学部 専任講師 現在に至る
2020年 - 2023 JSPS-RSNZ 二国間国際共同研究プロジェクト プロジェクトリーダー