第10回 これからのたんぱく質摂取をめぐって 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授 加藤久典 先生

2万数千の設計図によってアミノ酸からたんぱく質が合成される

ー たんぱく質とアミノ酸の関係について、改めて教えていただけますか?

加藤先生たんぱく質というのはアミノ酸が紐のように繋がってできているものです。20種類のアミノ酸からたんぱく質がつくられ、理論上では、それらの並び方の順番でほぼ無限のたんぱく質ができるといえます。実際に私たちの身体がどれくらいのたんぱく質をつくっているかといえば、そのための設計図である遺伝子は2万数千あるといわれています。さらに、それぞれの設計図から1種類だけがつくられるのではなく、例えば他の分子がくっついたり、一部が切れたりなど様々なバリエーションが発生するため、身体の中には2万数千をはるかに上回るたんぱく質があると考えていいと思います。

ー アミノ酸の中で「必須アミノ酸」と呼ばれるものはどこに違いがあるのでしょうか?

加藤先生20種類のアミノ酸のうち、体内で合成できないため食品から摂取しないといけない9種類のアミノ酸が必須アミノ酸です。それ以外のアミノ酸を非必須アミノ酸と呼びますが、その中には、ある条件下では不足するものや成長過程では合成が十分にできないものがあり、これを「準必須アミノ酸」あるいは「条件付き必須アミノ酸」としています。
ところで、「非必須」という言い方は “身体には大事ではない”というとられ方をされかねないとして、研究者の間では最近、必須アミノ酸を「不可欠アミノ酸」、非必須アミノ酸を「可欠アミノ酸」と呼ぶ場合が増えてきています。

ー 身体に必要なのに、体内では合成できないアミノ酸があるのはなぜでしょうか?

加藤先生これは進化の過程で変わってきたと考えられています。合成するために大きなエネルギーが必要といった理由で、体内でつくるよりも食べ物から摂取した方が生物にとって有利だということから生まれてきたものと考えられます。

たんぱく質をつくる20種のアミノ酸

  • 必須アミノ酸(9種)
    イソロイシン、ロイシン、リジン(リシン)、メチオニン、フェニルアラニン、
    スレオニン(トレオニン)、トリプトファン、バリン、ヒスチジン
  • 非必須アミノ酸(11種)
    チロシン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、
    プロリン、グリシン、アラニン、アルギニン
Column 1たんぱく質とアミノ酸、同じ量を食べたとしたら?

たんぱく質はアミノ酸がつながったもの。では、栄養的に考えてたんぱく質と同量のアミノ酸を摂った場合には、身体の中で全く同じ作用を及ぼすのでしょうか?そこには違いがあると加藤先生はいいます。たんぱく質を食べた場合は消化によって一つひとつのアミノ酸へバラバラにする必要がありますが、アミノ酸で摂取すればそのプロセスが省かれるため、早く吸収されて血中濃度が上がるので身体に及ぼす影響も違ってくるというのです。例えばサプリメントでアミノ酸を摂取することとたんぱく質を含む食品を食べることは、この点で多少意味の違いがあるのです。

ー アミノ酸スコアという言葉をよく耳にするようになりましたが、これはどのようなものでしょうか?

加藤先生必須アミノ酸には、それぞれをどのくらい摂取しないといけないという基準が定められています。この基準値を食品がどれくらい満たしているかを示すのがアミノ酸スコアです。この指標では、すべての必須アミノ酸を基準値以上含む場合はアミノ酸スコア100となり、一つでも基準値に満たない必須アミノ酸があると、それに合わせたスコアとなります。

具体的に図でご説明しましょう。

アミノ酸スコアのイメージ
  • 食品Aは、必須アミノ酸の含有量が9種類すべてで基準値を超えています。
    この場合、アミノ酸スコアは100になります。
  • 食品Bは、いくつかの必須アミノ酸の含有量が基準値に達していません。
    この場合のアミノ酸スコアは、基準値を満たす割合が最も低い必須アミノ酸(第一制限アミノ酸)に合わせた値になります。

この「アミノ酸の桶」の図が示すように、アミノ酸スコアが100の食品Aでは、身体に必要なたんぱく質を十分に生成できますが、Bの場合は含有量の一番少ない必須アミノ酸までしかたんぱく質を生成できず、他の必須アミノ酸は体内で利用されにくくなってしまいます。つまり、アミノ酸スコアが高い食品ほど、身体のたんぱく質として利用されやすく、栄養価に優れているということです。

ー アミノ酸スコアの観点から、毎日の食事ではどんなことに気をつければよいでしょうか?

加藤先生基本的に動物性のたんぱく質はどのアミノ酸も十分に満たされていますから、あまりアミノ酸スコアを気にする必要はないでしょう。いっぽう植物性たんぱく質では、例えば小麦を原料とする食品に偏りがちな人、例えばうどんばかり食べているといった人は、リジンやスレオニンといったアミノ酸が不足することになりますので注意が必要です。ではベジタリアンの食事はアミノ酸のバランスが良くないかというと、植物性のたんぱく質でも例えば米や小麦の穀類と豆類を組み合わせればアミノ酸のバランスが良くなりますので、上手に工夫をすれば大丈夫だと思います。